Narrative ナラティブ

助産師ナラティブ~板垣 文恵~
カテゴリー 分娩取扱
名前 板垣 文恵
所属 出張さんばステーションうるま 助産院むすびや

現在のお仕事について教えてください。

自宅出産のサポート、オープンシステムを利用してのお産のサポート
主に沖縄県本島内で、自宅出産のサポートをしています。
また、嘱託医療機関である、ゆいクリニックをお借りする、オープンシステムという方法で、自宅ではためらいのある方や、医療的な理由のある方も、妊娠、お産、産後と継続的に助産師のサポートが受けやすいようなシステムを取り入れています。

沖縄らしいことといえば、アメリカ軍基地があることは皆さんご存じの事と思います。アメリカ人の方も暮らしの中で、妊娠することもあれば、出産し、子育てをしています。そのようなアメリカ人に向けて、ゆいクリニックと協働して、妊婦健診やお産のサポート、産後訪問、一か月健診なども行っています。基地内では北谷(ちゃたん)にある海軍病院でも出産はできますが、より満足のいく体験をされたい方や、自然に産みたいという方に向けて自宅やクリニックでサポートを行っています。

現在のお仕事について教えてください。

市町村の新生児訪問、産後ケアに加え、いのちのお話会等、地域での活動の実施
今は週1回非常勤でクリニックのお仕事のほか、市町村から委託される形での産後ケアを実施しています。お産の振り返り会などを通して、「お産」が私たちにとって、切っても切れない関係であることをライフワークとして、取り組んでいます。
更に来年度から「暮らしのお産」として、お母さん、お産ドゥーラ、助産師で妊婦さんが心から安らげる空間の中、おなかの赤ちゃんを集うみんなで創りあげる時間を味わいます。それはまるでかつての「産婆さんとそこにお手伝いに来た近所のお母さんたち」のように。
また「とうちゃん会」と称して、自宅出産を体験したお父さんから声をかけていただき、お父さん同志が集まる機会を作り、男性の方にも子育てやお産に関して、話したり、深めたりする会を設けています。

現在のお仕事を始めるまでの経緯について教えてください。

助産師を目指したきっかけは?

看護学生時代に、友人からの「産婆さんぽいよね。割烹着が似合いそう」という言葉をきっかけに、「そうだ、助産師になろう!」と思ったことが始まりです。
今、ナース服ではなく、エプロンや割烹着のようなものを着て仕事しているので、言ってくれた友達に感謝しています。

現在の仕事を始めるきっかけは?

勤務していたクリニックに通うお母さんが、どうしても自宅出産をしたいとのことで、クリニックから大先輩の開業助産師さんに委託をして自宅出産をその開業助産師さんとともにサポートしたことです。日常の中にお産がある事や、開業助産師さんのお母さんやご家族への丁寧な関わりなどを見させていただきました。
また、その人がより、その人らしくいられる「自宅」でのお産前後のなんとも言えない空気感に「命を生み出す」ということは、こんな側面もあるのか。この世界をもっと深めたい、極めたいと思ったのがきっかけです。
一番、最初の自宅出産のサポートの時に先輩助産師さんから「板垣さん、お産はね、万物に感謝なのよね」と教えていただきました。万物に絡み合う奇跡の中に、私たちの命は生まれて、生きて、また死んでいく大きなサイクルを感じました。その感覚を常に大切に感じ取りながら、お産という世界を体現していきたいと、腹の底から強く感じたことが、私がお産開業できる助産師になろうと思ったきっかけです。

38、39週くらいでも平気でバーベルを上げる方や本来入院している時期である産後1日目に買い物にいく方もおられました。しかし、その方たちは元気なのです。生活して逞しく生きている姿がそこにありました。
私たちが教科書、病院やクリニックの、医療の枠の概念で決めつけていたものが、生活しているお母さんにはかえって必要のないこともありました。もちろん、必要なことも多いのですが「暮らしの中で、日常生活を送り、生理的な現象である妊娠出産産後を営む女性」をもっともっと、側にいて感じ取りたいと思いました。

心にのこるエピソードは?

新しい命を生み出すときには、何かあったら責任は病院がとってくれると思う人もいらっしゃるかもしれません。私がかかわったお母さんもそんな一人でした。でもその方は「自宅で産むということは選択した自分自身にも責任があり、その責任に恐怖を感じるが、その怖さを板垣さんとともに引き受けることが実はとても潔く気持ちよく、誰かのせいにしない生き方を経験するというのは、今後の人生において、とても大きな経験になった。思いくさびが取れて自由になった」と言われたことが、とても印象に残っています。
助産師としても、いのちの責任の大きさは勤務していた時とは全く違う感覚です。その責任の重さに怖くてしょうがないこともあります。ただ、私ができることは真摯に目の前の命に対峙することです。

妊婦健診からパートナーに同席してもらうことで、助産師がお母さんに丁寧に関わるのを通して、夫婦関係も変わったというエピソードもありました。
命を産み出すときに女性はどんどん変化してきます。男性がその変化を感じ取り、より彼女を愛おしく感じることもあるようです。男性がとても丁寧に彼女に関わっていけるので、よりその女性がその方らしく、自分自身の性を大きな包容力で受け入れられる関係の変化もありました。

ご苦労されたことは?

決して、一人ではお産のサポートはできません。自宅出産を支えてくださる助産師のサポーターを探すことが大変でした。また、更にそのサポーターの方とどれだけ信頼関係を深めていくか、勉強中です。

また勤務助産師の時には考えなかった、助産院を経営していくことの大変さもあります。学生時代、「医療」のことは学んでも「経営」のことなど学ばなかったので。


でも何よりも、心を合わせてお産に向かって、信頼関係を築いていく中で、お母さんの望むような結果にならなかった時には自分自身の力不足を痛感し、未熟さを目の当たりにして、落ち込むことがあります。それでも、その結果も含めて、お母さんと共有し、サポート助産師さんと共有し、今後につなげていくようにお産の振り返りを大切にしています。

現在取り組んでいることについて教えてください。

私は助産師の仕事が好きです。助産師の中でも分娩での開業助産師、助産院の数がとても少ないですが、とても楽しくやりがいのある仕事で、残していきたいと思っています。
また、助産師に出会うと、自宅出産に興味はない?とスカウトしたりしていますが、お産の現場に同行していただくと、言葉に表せないものを受け取ってくれるように感じています。

一度、お産をご一緒いただけると、自分がしたかったことはこういうものだと、その人の助産師人生に、もう一度火が付くことがあります。そのくらいお産には、関わる人の人生を深く変えていく力があります。そんなお産をともに創造し、サポートできる助産師さんが一人でも増えたらなと感じております。自分ひとりだけでは限界がありますし、同じ立場に立つ仲間がいてほしい、そのための仕組みができてほしいと思っています。

ここ数年は「出産ケア政策会議」という団体に参加し、LMC(Lead maternity Care)マタニティ継続ケア担当責任者の継続ケアシステムの導入に力を入れています。LMCとは、リスクの程度や出産場所に関わらず、継続的に妊娠、出産、産後に同一の助産師または少人数の助産師が関わることで、お母さんの出産ケアの満足度のアップ、流早産の減少、医療介入の減少等が明らかになっているシステムです。この出産システムを広く認知、LMC助産師の仲間作り、お母さんにご利用いただけるように日々模索しています。

今後の目標や展望などをお聞かせください。

沖縄県は日本で一番の出生率の高さで、ゆいまーる精神でお互いを支えあう助産師同士のつながりも豊かです。ゆいまーる精神とは、「一度会ったら皆兄弟」「袖振る仲はご縁がある」「お互い様。お互いに支えましょうね~」というようなことです。ますます、助産師同士お互いにリスペクトして、研鑽を積みながら、施設の垣根を越えて、地域全体で「お産」を中心とした周産期をサポートできればと思っています。
助産師の中でも得意、不得意がありますので、自分ができないところは、仲間が請け負ってくれます。母乳育児、ベビーケア、妊活、流産死産、性教育等、助産師の活動は生きることすべてにつながっています。
また、日本全国に医療連携がスムーズな助産院が増えて、妊娠初期からLMCとつながり、安全とともに「安心」のなか、女性の本能と権利を護る「妊娠・出産・産後・育児」が切れ目なくサポートできるようなお産の社会システムの変化にも力を入れていきたいと思います。

今後の目標や展望などをお聞かせください。

現在さらなる飛躍を目指している助産師に向けてアドバイス等があれば、是非お願いします。

まずは、ご自身が幸せであること。そして、ご自身の周りのご家族やご友人が幸せであること。その中で、目の前の女性の本心に気が付くセンサーを持ち、いのちに対峙すること。そんなことを引き出せる助産師になるために、自分自身を大切にできるようにしてください。

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