Narrative ナラティブ

助産師ナラティブ~岡本 登美子~
カテゴリー 分娩取扱
名前 岡本 登美子
所属 ウパウパハウス岡本助産院

現在のお仕事について教えてください。

ウパウパハウス岡本助産院はじめ、関連施設のコミュニティーハウスや産後ケアハウス、保育園での仕事がありますが、最も力を入れているのは周産期の訪問看護です。
昨今、新型コロナウイルス感染症の影響により、気軽に相談できる環境が少なくメンタル面で落ち込んでしまう女性や、面会時間に制限があり出産した子どもを抱っこすることもできないなど、さまざまな育児不安を抱えている母親が多くなっているように見受けられます。コロナの影響により妊産婦が孤立している状況がその後の子育てへの不安に繋がっていると感じています。もっと身近に地域で母親と赤ちゃん、そして家族を支援できるよう助産師として力になりたい、寄り添いたいと思い、 2020年7月に母子へのアドバイスやケアを行う「助産師による訪問看護」を開設しました。

現在のお仕事を始めるまでの経緯について教えてください。

こころに残っているエピソード等について教えてください
中学2年生の部活が終わって友達と帰宅途中に、産気づいた妊婦さんの家に自転車で颯爽と駆け付けている助産師さんの姿を見かけました。往診カバンを乗せて自転車で走る予防着姿の女性がとても眩しく、憧れを持ったことを覚えています。その時はまだ助産師になりたい!とまでは思っておらず、思春期だった私は、幼いころから演歌が好きだったこともあり、将来は歌手になりたいと思っていました。17歳の時に、自分で歌手になるためにオーディションに挑みました。オーディションでは、最後まで歌うことができたのですが、結果は不合格でした。悔しい思いをしましたが、人生の運命の岐路と転機になったと思います。

歌手の夢が絶たれてから将来の仕事に迷っていましたが、父親から女の子も手に職をつけとけと繰り返し言われていたこともあり看護の道に興味を抱くようになり、准看護師になりました。看護助手になってから思春期の時に見た助産師さんの影響もあり、女性が命を生み出すその場を共有できる助産師さんに感銘を受け産婦人科の診療所で働くことになりました。その後、看護師の資格を取得することができ看護師として産婦人科のある病院へ就職しました。産婦人科で勤務していく中で、妊娠・出産に立ち合い新しい命の誕生の瞬間に女性の逞しさを感じ助産師という仕事が素晴らしい職業だと痛感しました。また、分娩時に直接介助をしている助産師自身の判断で命を取り上げていることに凄い役割を担っていることを改めて知ると同時に、妊婦さんから信頼される助産師の姿を見て、私も直接お産に関わりたいと強く感じ、助産師を目指そうと決意しました。

  1. 産後、保育、子育ての関連施設を立ち上げ子育てを全面的にサポート

2012年にウパウパハウスでの関連施設として、プレママ・プレパパや出産後のママたちが気軽に来所できるコミュニティスペースを開設しました。また2016年に産後ケア事業の施設も開設しました。この産後ケア事業は、市町村の委託事業として宿泊型を受託して継続しています。この産後ケア事業に関しては私自身の経験をもとに始めることとなりました。私が41歳で出産をし、当時子どもが生後7か月のタイミングで仕事復帰をしようと思い、地区保健所の保育課の窓口に相談へ行きました。しかしながら、その時には待機児童が多く入園は未確定と伝えられ復職がすぐにできない状況でした。出産後に復職をしたいと希望する女性達にとって子どもを預けることができず、産後の母親が復職をするハードルの高さについて身をもって体験したことで働く女性のために子どもが預けられる託児施設をつくることを決意しました。

助産師が保育園を立ち上げることに最も大変だったことは、保育園を運営していく資金繰りでした。地域の働く女性のために助産師が保育事業を運営することに夫や家族も巻き込み27年が過ぎ、春には園児を卒園させ、また春が来て新しい園児を迎えるという流れが繰り返されます。振り返ってみると息子2歳で始めた事業から紆余曲折を乗り越え、2018年に認可保育園を新設し、認定保育園3ヶ所、150名以上の園児を保育する事業となり多くの有資格者を管理・運営・経営へと展開することになり本当に様々な苦難があったと思っています。ウパウパハウスでは、助産所も併設していることから園児に「いのち」の話をするなど、助産師の働き方も多機能を超えて大きな意味があると誇らしく感じます。また気になるお子様の発達など、助産師経験と保育園を開設しているからこそわかる園児の様子を保育士や保護者と共有し相談できる環境を提供することが地域母子保健事業の役割でもあると感じています。医療的な側面だけでなく、発育や発達の様子も見て保護者に成長を報告します。

園児の母親の妊娠中は、上の子の抱き方やお腹の張りなどアドバイスをすることもあります。お迎えに来る父親に対しては協力していることを褒めて家族全体を保育園でサポートしています。

現在のお仕事でのやりがいについて教えてください。

こころに残っているエピソード等について教えてください。

こころに残るエピソードはたくさんありますが、ここではその中で1つエピソードを紹介します。
4人目を出産した母親にその家族の長男が「もう一人産んで欲しい。ねぇいいよね、岡本先生」と伝えていた場面に居合わせた時です。「お母さんが生んでくれるなら弟でも妹でもいいからお願い。お兄ちゃんと呼ばれたい。兄妹はひとりでもふたりでも多くの方がいいと思う。」と言われたそうです。お母さん自身は、家の広さや経済面でも悩んでいましたが、5人目を決意され、妊娠・出産に関わることになりました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により、夫や家族の立ち合いが中止となり、リモートで分娩の立ち合いを行ってもらうことになりました。思い掛けない出産方法になりましたが、「Choo Choo TRAIN」を踊り付きで歌ったり、「負けないで」の歌をみんなで唄ったり、家族のチームワークと即興でのアドリブが工夫され愛情に溢れる応援に感動しました。出産後、お母さんから「助産院で産むという経験や、助産師さんの関わりが無ければ子どもは4人だったと思います。助産師さんからの励ましがあったからこそ、沢山誉めて貰ったからこそ、もう1人子どもを産みたいと思えました。」と伺うことが出来ました。

ご苦労したことなどあれば教えてください。

今はエコー検査ができ、緊急時など医療機関ともすぐに連携することができるようになっているので、医療的側面で困ることほとんどありません。苦労ではありませんが、働いている中で怖いと感じることはありました。分娩にかかわる際、一番怖いのは産後の異常出血が起こった時だと思っています。その中でも忘れられないのは、離島で医師と連絡が取れない中、分娩の取り扱いをした時に、産後の出血の対応を行うことになったことです。医師が現場にいなかったことから、電話でやり取りしながらの対応をしていることに感じている不安と産婦を安全に守れるだろうかという心配は胸が張り裂けそうになるくらいの想いでした。止血したときの安堵感やこれでよかったのだろうかと医師との振り返りは有意義で、その経験が今の現場で活かされています。助産院でも、出産の場面では冷静な判断をすることが大切で、できるだけ予防策を事前に取ることができるように事前準備とカンファレンスを行い、情報共有や対策の検討を行うようにしています。

今後の目標や展望など教えてください。

新型コロナウイルス感染症の影響により、分娩件数が少なくなり、不妊症や不育症など妊娠中の病気を抱える方が増えています。また、感染症による不安などからお腹が張りやすくなったり、例年より分娩予定超過になってしまったりする方が増加している傾向があります。このような状況から様々な問題が生じ、正常な分娩で出産できる方も少なくなってきてしまっていると感じています。その中で、少子化を何とか打破できる手段はないかと細々ながら思っています。

最近では、保育園の年中・年長さんに20~30分くらいほどの時間で「ママのお腹の中にいた私たち」というテーマで園児や保育士に命の話をする活動を始めました。子ども達に、お腹の中ではどんな様子だったのかを聞き、助産師からはお腹の中での状況を映像で流し、手作りの教材を使って説明します。いのちの成り立ちは、初めはボールペンで描いた点のように小さく、月日をかけて3kgくらいの赤ちゃんになる事を伝えます。また、最後に実際に赤ちゃんのモデル人形を抱っこしてもらいます。このような活動を続けることで、子ども達が助産師という専門職の存在を知る機会にもなってもらいたいとの思いで続けています。話を聞いている子どもたちは目をキラキラさせてさせ、保護者や保育士の反応からも来年もまたやってほしいという手ごたえを純粋に受け止めて活動していきます。

今の出生率が減少している状況の中でも、お産をする女性がいなくなるわけではありません。どんな状況になっても、安全で安心なお産を心掛けていく目標は変わりません。妊娠中の女性のケアだけでなく、不妊に悩んでいる男女ともに関わりたいという思いもあります。そして、助産所で産みたいと思う妊産婦に寄り添い、満足したというお産と「また生みたい」と思える環境を整えていきたいと思います。私は、産後のお母さんが「お産が楽しかった」と女性が出産で自分を褒める最大の喜びを共有できる協働者でいたいと思います。「子育てを一人で頑張らなくてもいいんだよ、助産師がここにいるよ、いつでもおいで」という安心できる環境について語っていきたいです。

現在さらなる飛躍を目指している助産師に向けてアドバイス等ぜひお願いします。

助産師を続ける中でキャリアに悩んでいるときは、同じように悩んできた先輩助産師に相談してもいいと思います。たくさん経験を持っている助産師の生の声を聞くことで勇気が湧いて、また頑張ろうと思えることもあります。まずは貪欲になる事が必要だと思います。様々な情報を得て、いまの社会は何に困っているのか、何が問題なのか、助産師にできることは何なのか、そこを支えるためにはどこにアクションを起こせばいいのか、どんな働き方をすればいいのか、助産師としてできること、できないことのすみわけをして、足りない部分は行政や企業、多職種に連携する行動力、コミュニケーション能力を高めることが重要だと思います。何をするにしても自分の健康が最大の資源です。3食の食事、運動、睡眠は基本です。

 

また私は母子の2つの命に助産師の自己判断力、場の空気がよめる察知力が、大切だと思っています。ですので、病院勤務だけでなく地域で活動している、先輩助産師の活動も視野に入れてもいいのかもしれません。就職の第一歩は病院となるケースが多く現場では混合病棟で働く助産師の働き方もあります。助産所はビジネスライクで仕事をするというわけにはいかないこともあります。心を尽くしたい、寄り添っていたい、見届けたいなど。多様な働き方があるからこそ助産師としてどれだけのワークができるのか、地域の母子保健活動も考え斬新な助産師の構想、構築していくためにシステム開発を考える事業改革が求められていると思います。

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