カテゴリー | 教育 |
---|---|
名前 | 左:三浦慶子さん 右:並﨑直美さん |
所属 | 独立行政法人国立病院機構 京都医療センター附属 京都看護助産学校 助産学科 |
助産師を養成する専門学校で教員をしています。私たち2名の教員と教育主事との3人で、授業や実習を分担しながら、助産師を目指す学生たちと日々向き合っています。実は、いまの職場は、私たちの母校なんです。自分たちが学生のころにお世話になった先生と一緒に働いているのは、とても貴重だと思いますし、お互いを信頼して働くことができています。
授業風景
模擬妊婦もします
助産師を目指したきっかけは?
並﨑:助産師になる前は、ホテルで働いていました。結婚・出産・離婚を経験し、子どもを自分の力で育てていくために何か資格が欲しいと考え、医療職を目指しました。出産後に母乳育児に困っていた時、親身になって関わってくれた助産師の印象が強く、助産師を目指して学ぶことを決意しました。
三浦:助産師になる前は、教育大学を卒業し、小学校・中学校教諭をしていました。小・中学校で教師を続けながらも、仕事に行き詰まりを感じていた頃、生徒の職業体験でとある病院を訪れました。その時、患者さんが、看護師体験をした生徒に満面の笑みで「ありがとう!」と感謝している姿を見て、世の中にこんないい仕事があったんだ!と思ったのが、医療職を目指したきっかけです。そこから、自分の経験を活かせる「教育(保健指導)+こども」が叶う医療職は、助産師なんじゃないかと考え、助産師を目指しました。
現在の仕事を始めるきっかけは?
並﨑:実習指導者講習会に参加した時に、教員をしないかと声をかけてもらいました。ですが、「私にできるのか?」と自信がなかったし、イメージもできなかったので躊躇していました。そんな時、母性看護学実習に来た看護学生さんが、褥婦さんとの関わりの中で「(看護って)めっちゃ楽しい!」と目を輝かせる様子を見て、教育の先にある喜びってこういう感じなんだと知ることができました。その経験から、教員の道へ進むことを決心しました。その時の、看護学生さんに感謝ですね。
三浦:助産師として働きながら、自分自身のキャリア選択の時期を迎えたとき、もともとの教師経験を活かして看護教員をやってみないかと声をかけてもらいました。その時は、教師としての過去の苦い経験や記憶もあり、教育の現場に戻ることに戸惑いがあったのですが、自分の奥底にある「もう一度、教育がしたい」という気持ちを信じて、勇気を出して教育の現場に飛び込みました。そこから、看護教員として看護基礎教育から経験を積み、今年(インタビュー時)から助産師教育に従事しています。
卒業前OSCE(客観的臨床能力試験)の様子
リフレクションの様子(OSCE)
こころに残っているエピソード等があればお聞かせください
並﨑:学生が助産師になっていく過程を1年間見守り、卒業前になると「助産師」として同じ目線で話ができるようになるのが本当に嬉しいですね。ものすごいスピードで成長し、頼もしくなっていく学生の様子を見ることが、日々のモティベーションにつながっています。また、卒業生たちが実習先でイキイキと働いている姿を見たり、指導者として学生によい指導をしてくれたときに、この仕事をやってきてよかったと思えます。以前、教育主事に「教員として教えているのではなく、学生たちに教員にしてもらっているんだよ」という言葉をもらいました。まさに、その通りだと感じています。
苦労したことなどがあればお聞かせください
三浦:小・中学校で経験してきた「教えこむ教育」から「学生自ら考える教育」への切り替えに苦労しました。その時の教育主事から「(考える)種を蒔くだけでいい。そこからは待て」と言われ、ハッとしました。学生の考えが醸成されるのを「待つ」ことに、今も苦労しています。「考えて動く」ことができる助産師になってもらうためにも、学生の「考える」を忍耐強く、支援していきたいです。
並﨑:指導者と教員の立ち位置の切り替えに苦労しました。教員になりたての頃は、どうしても自分が直接ケアをしたくなる場面がたくさんあり、学生を私と指導者との板挟みにしてしまった苦い経験があります。そんなときは、先輩の教員に自分が感じているジレンマを聞いてもらったり、先輩教員の学生との関わり方を見せてもらったりしながら、少しずつ、自分なりの教員としての立ち位置がわかってきたように思います。
お二人は同い年の教員ですが、ふたりが一緒だからこそ頑張れている部分はありますか?
常に、お互いをサポートし合いながら教育に取り組んでいます。それぞれの経験が違うので、学生との関わり方、授業の進め方など、教育のノウハウについて、お互いの大事にしていることを見たり、聞いたりすることで学ぶことが多いです。「こんな教育がしたいな」「どうすればよかったのかな」など、常日頃、ふたりで授業の工夫など、よりよい教育のあり方について語り合い、切磋琢磨しています。時には、話に熱が入りすぎて注意されることもあるくらいです(笑)。お互いがいるからこそ、この仕事を頑張れています。
学生と共に「マタニティクラス」
並﨑:助産師教育はとてもやりがいのある仕事です。臨床にいた時と違って、学生を通して、対象にじっくりと関われる喜びを感じています。今後も、学生と共に学び、人間力のある助産師を育てていきたいです。
三浦:助産師に必要なものは「その人を想う愛」だと思っています。確かな知識や技術ももちろんですが、助産師は、人間として愛されないと成り立たない仕事だと思っています。なので、愛される人(助産師)を育てたいと思っています。そのためにも、学生を尊重し、「種を蒔く」仕事を全うできればいいなと思います。
最初、教員という仕事は、臨床から離れるものだと考えていました。でも、教員になってみると、学生を通して、一人ひとりの対象者にじっくりと関わることができることに気づきました。そのため、臨床から離れた感覚はないですね。むしろ、学生と共に学ぶことで、より「助産師」らしくなった気がします。教育を通して、多様な助産師のありかたや助産観に触れ、助産師として、また、人間として大いに成長できると思います。私たちは、母子やその家族にとって、より良い社会を作っていくための基盤となるものが教育だと信じています。つまり、いま、そして未来に、学生の目の前にいるであろう母子とその家族のために、私たちは教育というフィールドから支援しているんです。ぜひ、教育の楽しさを感じてほしいです。一緒に助産の未来を紡いでいきましょう。